豊川 宮の西北に巡りたる川なり
豊受の宮に属す 故に豊川という 今は幅二丈ばかりの水流にして宮地の北を巡れり 〇宮中へ入るに東北に二つの橋あり 北御門橋は西にあり 一の鳥居口は東にあり 北御門橋のほとりを広小路という この川のほとりに神領古法の制札あり 北御門の傍らの西なる石垣は長さ十余間 高さ八尺ばかり 幅六尺あり 慶長四年大阪営中朝日殿という女子の寄付ありしという この石垣の東の端に兜石といえる小さき石あり いにしへ出陣には神前を拝してこの石を撫づる例ありしが知る人稀なり 近年ある侯家より尋ねありしを松木知彦神主知りて教えられしとぞ いにしへの石垣に等しき土手は慶安の頃常晨長官築かれしという
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慶長4年は1599年 慶安年間は1648年から1652年
北御門(きたみかど)といっても門があるわけではなさそうです。現在も外宮の入り口には東西の橋があり、西は火除橋(ひよけばし)、東は表参道火除橋と呼ばれています。明治時代まで、この辺りまで民家が立ち並んでいたそうで、火災の際に延焼を食い止めるため、お堀の川と橋は重要でした。現在、両方の橋の手前も外宮の敷地で、砂利が敷かれた広場になっています。また、今のお堀はとても小さいのですが、本文によれば川幅はおよそ2丈あったと書いてあります。2丈といえば、6メートルもあったことになります。川が小さくなったのは、宮川の治水が進んだことと関係があるのでしょうか。
北御門の火除け橋の両側には古い石垣があり、特に西側では直角に交わる、ひときわ大きな石を積み上げた石垣があります。衛士見張所があって真ん中はとぎれており、高さは人の腰位、石垣の上は大きな木が植えられています。高さ八尺などはとうていありませんが、その古さと石の大きさには迫力を感じます。これが朝日殿が寄付したという石垣の一部ではないかと思いましたが、想像の域を出ません。他にも石垣はあり、参宮名所図会の絵と大体一致しています。
火除け橋の東側の石垣は短く、苔に覆われた土手に変わります。現在、北御門と表参道のあいだは駐車場になっていて、駐車場の境内側の通路を歩くと、この土手に沿って歩くことが出きます。この土手の終わりは平らな石に覆われて補強されていました。これを見て、宮川の突出し提にも同じような構造があったと思い出しました。宮川の突出し提は江戸時代に築かれたものですが、この土手も同じ頃のものではないかと思われます。
北御門付近 火除け橋と石垣 |
北御門、表参道間の土手 |
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宮川は昔、伊勢平野では幾筋もの支流となって流れていました。その中で伊勢平野を横切って勢田川に合流する川が清川と豊川でした。
清川は、山田衢衢之図でみると、小川町辺りから現れて、筋向橋、今の社、月夜見宮の北を流れていたと思われます。月夜見宮より上流はまだ未確認ですが、月夜見宮の北、県道37号線に平行している新道商店街の駐車場は、かつて川が流れていた所の上にあるそうです。この流れが清川と思われますが、現在は、コンクリートに蓋をされていて見えません。新道商店街の始まる踏み切り付近で川が現れ、線路の下をくぐって踏切の向こう側に出て、吹上方面に流れていきます。八軒通り手前で再び暗渠となりますが、50年前に近くに住んでいた夫の話では、この辺りの家々の玄関前には川があったそうです。今は道路が舗装され全くわかりません。吹上ポンプ場で勢田川に合流しているようです。
豊川は、外宮宮域を堀のように巡り、一度勾玉池と合流した後再び流れ出て、茜社参道入口付近に現れると思っていましたが、これは少々違っていました。濱口主一さんの「伊勢山田散策 ふるさと再発見」の本によると、豊川は、上社北側の堀が源流の名残で、そこから浦口、八日市場を経て外宮に達していましたが、生活排水によって汚染がすすんだため外宮に不浄水が流れるとして、明治35年に現在のNTTビルの南から流れを切り替え、茜社入口まで暗渠になっているということです。したがって、火除け橋の下を流れる川は、今は豊川とは直接につながってはおらず、勾玉池を出たところで豊川と合流しているということになります。川幅が小さくなった理由がよくわかりました。
さて茜社入口付近から流れ出た豊川は、御木本道路を渡って、ハローワーク、商工会議所、百五銀行付近を流れ、小田橋と簀子橋の間で勢田川と合流します。古市に向かう伊勢街道と並行するように、その北側を流れています。昔、伊勢街道を歩く人からも、その川面が見えたことでしょう。外宮境内のお堀の川は森に囲まれて少し暗いのですが、小さな美しい川です。市街に出たとたんに生活排水で汚れ、どぶ川のようになってしまうのは、とても残念です。この川が外宮から流れてきたという事さえ、知らない人が多いのではないでしょうか。勢田川を含めて、清流をよみがえらせたいものです。
清川 月夜見宮の北 新道駐車場 |
清川 線路下をくぐる
清川 吹上ポンプ場手前 道路の下 |
表参道付近(旧豊川) |
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