近長谷寺の十一面観音立像 と 普賢寺の普賢菩薩坐像
伊勢市とその西方の山,という本を見ながら,幾つかの伊勢の山をめぐっていると,だんだん全ての山を制覇したいという気持ちになってきました.連休の初日,大変な風邪で体調がやっと戻りかけてきたところでしたが,あまりの好天気についつい近場と思い出かけてしまいました.たまたま偶然にも両仏像の解説を聞くという機会に恵まれて,思わぬ仏像鑑賞の小旅行となりました.
長谷の集落までは,夫の運転で行きました.どの道をどう通ったのかは,恥ずかしながら記憶にありません.途中おきん茶屋の角を曲がったということは知っています.
長谷の集落に着くと観音の里と書いた大きな看板があります.この向かいが公民館になっていて,駐車場に車を置く事ができます.もう少し先までいくと,お寺の駐車場があるようですが,昔からの参道を登るなら,ここに車を置いたほうがよいと思われます.看板の裏の道を登っていくとすぐに,参道を示す石碑が建っていて,ここから右に曲がって登っていきます.コンクリートで舗装してある道ですが,なかなかの急な坂道です.寺まで,0.8キロ,途中に庚申塚や山の神,地蔵塚などの案内板があり,あと00mと書いてあるのを見て励まされながら,やっと境内に到着します.
このお寺は丹生山近長谷寺といい,885年に建立されたということです.本尊の十一面観音像は,6.6mという大きな仏像で,奈良の長谷寺,鎌倉の長谷寺とともに日本三観音のひとつとして有名なそうです.日本三観音とは三体の仏像を一本の樟から造ったものと伝えられているそうです.ちなみに奈良や鎌倉は「はせでら」と読みますがここは「ちょうこくじ」と読みます.近とは,伊勢神宮の近くという意味で,後の時代に改称されたそうです.また,本堂は洪水のため喪失され,元禄時代の再建で,創建当時のものはご本尊のみということです.
境内には本堂と庫裏が建っています.2月18日は例大祭で終日開帳されるそうですが,通常は拝観料200円かかります.しかも係りのおばさん2人は,地元の方で日曜日しかいらっしゃらないそうですから,平日に行っても,拝観することはできないようです!!私たちが拝観をお願いすると,パンフレットをわたしてくれて,堂内にはいる木戸をあけてくれました.ちょうど来週がその例大祭で,その準備のために,若い和尚さんがいらして仏具を磨いていました.私たちがはいると,手をとめてお寺の歴史や仏像などの説明をして下さいました.18日には,12時と3時に餅撒きがあるとか,護摩を焚いて行者の方がみえるとか.そして,なんとなんと,ご本尊を安置してある部屋の裏の扉を開けて,厨子の中,まさに観音様の足元に入れていただき,大きな観音様を下から見上げて拝ませて戴きました.
観音様は平安時代のもので,長い年月のため,黒ずんだ色をしていますが,近くで見ると木目が見られます.目は半開きで白くくっきりと塗られていて,また装飾品や錫杖,蓮華や水瓶などは,にぶく金色に輝き,観音様の大きさもあるのですが,全体に男性的で力強い印象がします.多分心にやましい事があると,この観音様の前では 空恐ろしくなるのではないでしょうか.
近長谷寺のある山は 長谷の城山と呼ばれ,南北朝時代には城があったそうです.頂上へは 寺の裏手から約10分ほど登ると着きます.道は整備されているのですが,頂上の広場は荒れ放題で,ベンチやテーブル,吸殻入れまであるのに,伸びた草や枯れススキに埋もれている状態でした.お寺の和尚さんもここ10年位は頂上へは行っていないと,おっしゃっていました.
和尚さんが教えてくださったので,車で数分のところにある普賢寺まで行ってみる事にしました.ご本尊の普賢菩薩坐像は旧国宝で現在は国指定重要文化財になっています.前もって連絡しておかなければ通常は拝観はできないようなのですが,たまたま別のお客様がいて,先代のご住職の奥様と思しき方が,快く招き入れてくださいました.本当にありがとうございました.また,このお寺にもいわゆる長谷型といわれる十一面観音像もあります.
ご本尊の普賢菩薩坐像は平安初期の特徴を備えると言う事ですが,年代等は不詳のようです.平安時代からこの地区でも多くの密教系の寺院があったそうですが,織田信長の焼き討ちにあってほとんどが焼失,この仏像のみが,民家にあって難を逃れ残ったということでした.この普賢菩薩坐像の特徴は姿の美しさにあると思います.装飾性に富んだ髪型と流れるような垂髪,ふくよかなで穏やかな表情,肉付きのよい肩とひきしまった胴体,リアリティのある存在感.印象はまさに優しい慈愛に満ちたという表現がふさわしい御仏像でした.近長谷寺の十一面観音像とは随分異なるように思います.やはり,普賢菩薩像の方が,後の時代につくられたものなのでしょうか.
帰りは更に足を伸ばして,てんけい公園に寄ってみました.新しい公園なのだと思います.広い池と芝の広場があり,凧揚げの家族やウォーキングを楽しむご夫婦など,なかなか良い公園でした.多気町もまだまだ,いろいろ行ってみたい所があります.少しずつまわりたいと思います.